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  • 2014.10.23

GK金沢克彦コラム #18

GK金沢コラム連載第18回!! 「馬場元子さん」

「誰だよ、おまえは?」

若き日のGKがそう電話で尋ねた相手とは……?

 昨日(22日)、ひさしぶりに全日本プロレスの後楽園ホール大会へ取材に出向いた。雨天なので少々気は進まなかったが、こういう時期に行っておかないと結局、長く現場を留守にしてしまうことになる。そうすると……まあべつにそうしなくても“プロレス2ちゃんねる”に、「どうせGKは新日本とZERO1しか観てないくせによぉ!」と書かれてしまうのだ。そんなことはどうでもいいし、いまさら2ちゃんの時代でもないのだが、やっぱり出来るだけいろいろな団体をライブ観戦しておいて損はない。

 やはり、秋山準新社長の顔色はどうなのか、隆男さん(大森)は元気にがんばっているのか、なんとなく悩めるKENSOはどんな試合をしているのかなど、実際に現場に足を運べば気になることは山ほど出てくるものなのだ。あっ、あとひとり、それがどこの団体、どこの会場でも必ず長州力の真似をして私に話しかけてくるウルティモ・ドラゴンもいる。この真似がまたまったく似ていない(笑)。似ていないけど、それがウルティモからの挨拶代わりなのだからそれはそれでいいだろう。なんせ、メキシコの英雄であるウルティモとは彼が新日本の通いの練習生時代からの付き合いなのである。

 

 また、この日は全日本プロレス旗揚げ42周年ということで、馬場元子相談役が会場へ観戦に訪れていた。休憩前に元子さんは秋山社長とともにリングに上がり、ファンに向けて挨拶をしている。聞くところによると、元子さんは脳梗塞を患ったということなので、元気なのかなあと心配していたのだが、至って元気そのもの。そういう病気をしたところなど微塵も感じさせなかった。リングへ向かう出番待ちの間、待機する元子さんを秋山、和田京平レフェリーらがガードするように囲んでいた。すぐ傍にいる元子さんに挨拶しないわけにはいかない。ワタクシ金沢はツカツカと元子さんの真正面まで行くと、被っていたキャップを脱いでから、「ご無沙汰しております。金沢です」と挨拶した。「あらぁー」という感じで、元子さんは少しウヤムヤに挨拶を返してくれた。おそろく、想定外の人間が突然現れたので、少し戸惑ったのではないか? そう私は勝手に解釈した。実際のところはまったくわからない。とにかく私は直立不動、たかが挨拶だけでこれだけ気を使うことは滅多にない。かのアントニオ猪木とでさえ、もっと気軽に会話できるというものだ。そういう意味でいえば、元子さんの存在は現代に生きる卑弥呼か西太后かといった趣だろうか? そういえば、7月4日にザ・キャピタル東急で『オールジャパン・プロレスリング設立記者会見』が行なわれた際に、元子さんに挨拶に出向いた『週刊プロレス』の佐藤正行編集長は、いきなり「あなた嫌い」と言われたらしい(笑)。

 

 うーむ、さすがは元子さんであり、さすがは佐藤編集長というしかない。元子さんの前で社交辞令は通用しないし、全日本の敵は私の敵、馬場さんの敵は私の敵という理論は未だ健在なのである。ただし、私的感覚でいくと、元子さんはあのジャイアント馬場さんの奥様なのだから、別格の存在感を漂わせている。生前の馬場さんを顧みると、馬場さんイコール元子さんだったのだから、元子さんと話すということは馬場さんと話すも同然、元子さん自体が全日本プロレスそのものだったのである。2000年以降、この業界に入り仕事してきた人たちはそのことを知らないのだろうな、だから平気な顔で元子さんに質問をできちゃうのだろうなあ、と半ば感心した部分もあった。

 

 それでは、元子さんと私のエピソードを今回、特別に公開しようと思う。周知のとおり、私は『週刊ファイト』記者としてこの業界でデビューした。『ファイト』といえば新日本であり、『ファイト』といえばアントニオ猪木。I編集長こと故・井上義啓編集長が猪木信者というか、猪木を書くことをライフワークとしていただけに、その印象があまりに強すぎた。そういった面がむしろ逆の目に出たのか、私のような新米記者は全日本プロレスの選手や関係者に可愛がられたのである。

 

「『ファイト』は編集長が偏っているだけで、キミには罪がないのだから」と妙な理屈で逆に全日本の会場や道場に行ってもガイにされることはなかった。元子さんも同様でむしろ私を可愛がってくれた。ある日、元子さん直々に新大阪新聞社・東京支社に勤務する私に電話をくれたことがある。そんなに大した要件ではなかったと思うが、まさか元子さんから直接電話をもらうなどとは夢にも思っていない時代である。

 

「金沢クン、電話よ」と会社の経理のオバちゃんに言われた。相手は名前を名乗らなかったらしい。電話をとると、「あら、金沢クン?」と先方の女性が言う。「ハイ、誰?」と言うと、「私ですよ」と返答。私はてっきり、高校の同級生か大学時代の運動部の同級生からの電話だと思い込んで、「だから、誰だよ? おまえは!?」とめんどう臭そうに問い掛けた。すると、「あ、馬場ですけども」と先方が答える。一瞬にして青ざめた。自分の顔を鏡で観たわけではないけれど、たぶん青ざめていたと思う。

 

「えー、元子さんですかー!? すいません、本当に失礼しましたー!!」と上ずった声で平謝り。「アッハハハ、いいのよ。ところでね……」と元子さんは要件を切り出した。いまだかつて、元子さんに対して、「おまえ」呼ばわりしたマスコミはたぶん私ぐらいだろう。それでもまったく元子さんが怒らなかったところを見ると、そこには最初からイタズラ心が働いていたのかもしれない。

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