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  • 2017.03.17

GK金沢克彦コラム #137

GK金沢コラム連載第137回!! 「プロレス偏差値80の切り返し」

春の祭典『NJC』開幕! 波乱続出の凄まじさ!
 多少の不安をおぼえつつ、それでいて私に勇気ある(?)オファーをしてくれたテレビ朝日関連会社のVPN(ビデオ・パック・ニッポン)の期待に応えるべく、7週間ぶりに新日本プロレスの会場に現場復帰した。しかも単なる取材ではなく、3・11愛知・愛知県体育館、3・12兵庫・ベイコム総合体育館という2連戦のテレビ解説。ちなみに、名古屋大会にはサムライTV生中継&新日本プロレスワールド、尼崎大会には新日本プロレスワールドの生放送が入っていた。

 両大会とも目玉は、NJC(NEW JAPAN CUP 2017)の1回戦にあたる4公式戦(計8戦)である。ここ最近、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)のテレビ観戦を最大のライフワークとしていたワタクシ金沢にとって、復帰戦がNJCというのもなにかの縁だろうか?(※関係ないけど!)。

 3月2日に6週間にもおよぶ入院生活から解放されてから、ちょうど10日目。担当医のアドバイス通りに、よく歩いていたしスポーツジムにも通っていた。それでも2泊3日の出張となると、不安がないといえば嘘になる。だけど、意外なほどに元気な自分に安堵感もおぼえた。やはり、精神的な張りであるとか、アグレッシブに動いてみることが大切なのだろう。
 11日の名古屋大会の試合開始時刻は午後6時から。事前の選手インタビューなども控えているから予定よりも早く、午後3時45分に会場入りした。体育館に入ってみると、まだ大方の選手は着替え中なのか、リング周りには3〜4名の選手の姿しかなかった。よくよく見ると、鈴木軍の面々。

 リング上にいる人物は1人だけ、鈴木みのるだった。こりゃ、ちょうどいい。みのるとは、私が入院した翌日(2月26日)、つまりオぺを受ける前日に何度かメール交換している。

 まあ、いまだから打ち明けてしまうと、私は病室から脱け出して信濃町の駅前まで行って、駅前にある喫煙所でタバコを吸っていた。手術直後はともかく、手術前の入院患者はほぼ野放し状態にされているので、こと細かく監視されることもない。だれかに聞いたのか、みのるは私が脳腫瘍切除手術のため入院していることを知っていた。

「いま、病院なの?」
「いや、脱走して駅前の喫煙所でタバコ吸ってるところ」
「この不良患者め!」
「ま、高校生時代の鈴木みのるみたいな状態だな」

 こんな他愛もないメールのやりとりをしていた。

 それを思いだしつつ、リング上で柔軟運動をしている、みのるに近づいていった。最初、みのるは「だれ?」という感じで怪訝な顔をしていた。私はといえば、帽子を目深に被りマスクをしていた。これでは、だれなのか判別もつかないだろう。マスクを取ると、ようやく気付いたようでものるの表情がすこしばかり緩んだ。

「なんだ、オッサンか? 死んだかと思っていたら、生きていたんだな」
「残念ながら、ピンピンしてるよ。まあ、死ぬかと思ったのは事実なんだけどね」
「ああ、ちょっと聞いてるよ。今日が復帰戦か? 来るのが遅いぞ。俺なんかもう1時間前から、1人でリングにいるからね(笑)」
「2日間、テレビ解説やるからよろしく」
「今日は軽く8人タッグだけどな。ま、明日(柴田戦)が本番ってとこだな」

 鈴木軍というか、鈴木みのるは変わらない。やはり会場に一番乗りなのだ。こうやって、他の選手たち、敵対するユニットとはいっさい交わることなく、リングを使って練習している。プロ意識云々というより、顔を合わせることさえも避けている。そこに観客がいようといるまいと、みのるの考える常識論はまったく変わっていない。

 ちなみに、当日公式戦のないみのるは第5試合の8人タッグマッチに出場。「風になれ」の入場テーマで入ってくると、わざわざ入場特設花道の反対側までやってきて、リングサイド最前列の私の座っている放送席前の鉄柵を思いっきり蹴り飛ばしてからリングインした。

「お帰り! しっかり解説してくれよな」

 敵意のこもった怖い顔。これが、みのる流の挨拶なのだろうと勝手に解釈したし、そう思うとなんとなくうれしさも込み上げてきた。

 その他、試合前のウォームアップ中に挨拶に来てくれたのは、永田裕志と小島聡。永田は、私が入院に至る症状が出てから現在に至るまでをすべて質問してきた。これも永田らしい。すべてを把握しておかないと、次回、私を飲みに誘えないこともあるのだろう(笑)。

 小島は、当日のゲスト解説につくことから私の状態を心配していた。

「GK、ちゃんとしゃべれるの? 選手の名前とか憶えてる? 俺がだれだかわかる?」

 こんなことを真顔で聞いてくるから、おもしろい。その後、記者席に菅林直樹会長が座っていたので挨拶に出向いた。同年代だから、健康状態に関してわかりあえる部分もある。私はずっと帽子を被っていたし、放送中も帽子を被った状態。表向きの理由は、オペで切開したり、頭を固定したりした傷痕を表に出したくないから。

 だけど本当の理由は、傷のせいでずうっと白髪染めができなかったから髪の3分の1が白髪で、なんともジジ臭いから。その話をすると、「なるほど、よくわかります」と菅林会長は笑っていた。

 では、実際に試合の話になるが、この2連戦を比較すると明らかに12日の尼崎大会のカードのほうにインパクトがある。今回、東京から来る生観戦組を何名か知っていたが、いずれも尼崎大会を選択していた。ところが、開幕戦にあたる愛知県体育館の試合も内容はよかった。まず、しばしのオフがあったせいか選手のコンディションがいい。NJC公式戦前の5試合を解説しただけで、けっこうな充実感に包まれた。

 爆発したのはメインに組まれたNJC1回戦の棚橋弘至vsEVILの初シングル戦。棚橋はその性格からいって先輩・後輩の壁を作らない男だから、かつて後輩のEVILを「なべちゃん」と呼んで可愛がっていた。それもいまは昔のお話となる。昨年夏の『G1 CLIMAX 26』で復帰戦を迎える前、棚橋はEVILをこう評していた。

「実際に『ロス・インゴ』をまわしているのはEVILですよ。内藤があまり試合に出てこない分、EVILがリードしている。パワーがあってスタミナがあって、緩急があって、受け身も抜群にいい。ここ数年の凱旋組ではオカダと並ぶ成功例じゃないかな?」

 昨年夏からシングル路線でも頭角を現したEVILは柴田勝頼に2連勝している。その後、2連敗を喫したものの新日本マットのトップ戦線でいけることを証明した感じ。

 それが今回の棚橋戦で確固たるものとなった。じつにレベルの高い攻防が展開されたのだ。ゲスト解説の小島が、「反則攻撃、場外戦なんかもありますけど、そこに惑わされてはいけないんじゃないかと。この試合はすごくレベルが高い。同じレスラー目線で観ても、『凄いな!』と素直に思いますね」と感心していたことからもわかるのだ。

 相手が棚橋だから、相手がEVILだからできる攻防がある。まさに、それがどんピシャリとはまった感覚なのだ。相手がEVILだからこそ、棚橋も相手が持ち込んだイスを逆利用してエグイ仕掛けに出た。そんなキラー棚橋降臨に名古屋が沸きかえる。

 一進一退のなか、勝負を決めたのはEVILだった。両者ダウンの最中、まさかの毒霧攻撃。そしてトドメのEVILを完璧に決めて棚橋をマットに沈めた。

 なにより驚いたのは、EVIL勝利の瞬間、拍手・歓声を送っていた観客がかなりいたこと。新日本のファン層が移り変わってきたこともある。だが、それ以上に、EVILという存在が完全にトップの一角として認知されたということだろう。
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