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  • 2015.08.21

GK金沢克彦コラム #61

GK金沢コラム連載第61回!! 「『真説・長州力』」

『真説・長州力』はプロレスファン、バラエティの長州しか知らない人、そしてアンチプロレスファンにも向けられている異色の長編大作

 ここ数年のプロレス関連本では異色の長編大作といっていい『真説・長州力 1951-2015』(集英社インターナショナル)を読んだ。これはよくあるゴーストライターを使った長州著という作品ではなく、長州本人と関係する周囲の人間を多数取材して書かれた評伝である。著者はノンフィクション作家の田崎健太さん。

 

 そもそも私はプロレス関連本というものをほとんど読まない。ほとんどというより、まったくと言ったほうがいいかもしれないほど読まない。プロレス専門誌やプロレスムックに関しても、ごくたまに目を通す程度。それも、仕事に必要だから目を通す、あるいは購入するという感じ。仕事に必要というのは、ネットや携帯サイトの情報だけではカバーしきれない詳細な記録などが掲載されているときのこと。

 

 テレビ解説や、こういうコラム原稿を書くときに非常に参考になるし、役立つからだ。それ以外のもの、つまり記録以外のものに興味がないのは、先入観を持ちたくないから。たとえば、試合レポートを書くにあたって他人のレポートなどはまず読まない。自分の感性を信じて書くレポートの邪魔にしかならないからだ。

 それほどプロレス本に縁遠い私が、なぜ今回、長編作品を4日間もかけて(笑)、読破したかというと、集英社のウェブサイトである『スポルティーバ』から取材依頼を受けたから。しかも、テーマは長州力。本来、『真説・長州力』のパブリシティーを兼ねての企画なのだが、それがあからさまでは厭らしいし、意味がないので、『週刊ゴング』時代に“長州番”と言われていた私の長州観や、エピソードなどを語ってもらうという方向になった。

 

 それでも、私からすると、そういう本が出たからにはきちんと感想を言いたい。だから、事前に担当者のNさんに本を送ってもらった。Nさんは昨年春先まで集英社の大ヒットシリーズとなったDVDマガジン『燃えろ!新日本プロレス』のメイン担当者であり、私が同シリーズのアドバイザーを務めていたことから、約2年間一緒に仕事をしてきた。言ってみれば、仲間というか戦友のようなものである。

 

 もうひとつ、著者が田崎さんということにも興味を惹かれた。2011年の2・4後楽園ホールで『安田忠夫引退興行』が開催されたことを憶えているだろうか? この興行をもって日本のプロレス界にケジメをつけた安田が、興行収益を旅費に充ててブラジルに渡り、現地で相撲の指導者になるという名目のもと、開催に至った。

 

 安田は、3試合をこなした。大相撲時代の同門の後輩に当たる曙とシングルマッチ、続いて、大谷晋二郎とタッグを組んで、鈴木みのる&高山善廣との対戦、さらにトリとしてお世話になった角界の先輩・天龍源一郎との一騎打ち。無論、安田の全敗に終わったが、集客も予想以上で興行は成功した。

 

 このとき、なぜか興行の主催者となったのが、プロレスとまったく縁のなかった田崎さん。その経緯を説明すると、早稲田大学で講師をしている田崎さんは、当時大学院に通っていたケンド―・カシンこと石澤常光と同世代ということもあり親しくなった。そこで、職業を転々としている安田のことを心配したカシンに相談を持ち掛けられた。

 

 周知のとおり、病的なギャンブル癖で何度も失敗を重ねている安田だから、海外の田舎町で仕事をするのが一番だろうというのが結論。そこでいろいろと調べた結果、ブラジルの田舎町が候補となった。安田もこのプランに乗った。これで、安田が田崎さん一行と同じ飛行機に乗ってブラジルに飛んでいれば、めでたしめでたしだった。

 

 ところが、安田の周辺に、「カンボジアにオープンするカジノで仕事をしてみないか?」という話が舞い込んだ。結局、安田はまた楽な道、ギャンブル方面を選んだ。田崎さんグループをダブルクロスするカタチで、カンボジアへ行ってしまったのだ。

 

 安田のために、わざわざホームページを開設し、ドキュメンタリー番組制作のためカメラを回しつづけていたスタッフもいる。みんなが裏切られた。ところが、カンボジアへ渡った安田のビジネスはうまくまわらない。当然、お金は入らない。そこで安田は引退興行の収益金がなんとか手もとに来ないかと画策して田崎さんサイドに執拗にお金の支払いを要求。しかし、当初の公約通り、田崎さんサイドは、ブラジルに渡る旅費と選手に支払うギャラ以外の収益はすべて日本赤十字社に寄付した。

 

 この引退興行の件では、私まで迷惑を被った。安田の最後の晴れ舞台と信じて、選手のブッキングも手伝ったし、パブリシティ―にも協力した。ところが、興行後に事態が一変。安田は田崎さんサイドが電話にでないことから、私に交渉役を頼んできた。そこで、安田の主張を田崎さんに電話で伝えた。田崎さんはごくまともな人物だった。それ以降、電話で話したり、メール交換をつづけていくうちに、どう考えても安田の言い分が一方的な言いがかりであり、田崎さんにはなんら落ち度がないことがわかった。私も翻って、田崎さんサイドに付くというか、この低次元なゴタゴタを穏便に解決できるように、田崎さんとメールのやりとりをしばらくつづけていた。

 

 安田もほどなくしておとなしくなり音信不通となって、ゴタゴタは自然消滅。それをもって、田崎さんと連絡をとることもなくなったわけである。いやあ、長くなったが、一応説明しておいたほうがいいだろう。そういう関係にあった田崎さんが、長州の本を書いたというのだから、興味が沸いてきたのだ。

 

 まあ、とにかく徹底して、長州の周辺を取材した長編大作だった。長州をはじめ、取材した関係者の数は60名を超えている。しかもプロレス関係者だけではない。長州の幼なじみから、高校時代の恩師、大学時代の先輩などプロ入り以前のプライベート関係まで取材している。その結果が480ページ(原稿用紙700枚以上)を超える長編となったわけだ。

 一応、コンテンツを紹介しておきたい。

 

〈本書の目次〉

プロローグ 端っこの男

第一章 もうひとつの苗字

第二章 ミュンヘンオリンピック韓国代表

第三章 プロレスへの戸惑い

第四章 「長州力」の名付け親

第五章 メキシコに「逃げる」

第六章 「噛ませ犬」事件の“謎”

第七章 タイガーマスク引退とクーデター

第八章 ジャパンプロレスの野望

第九章 長州を恨む男

第十章 現場監督の秘密

第十一章 消されたUWF

第十二章 アントニオ猪木と大仁田厚

第十三章 WJプロレスの躓き

第十四章 どん底

第十五章 再び、「ど真ん中」に

エピローグ 赤いパスポート

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