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  • 2015.01.30

髙阪剛が語る『UFC 183』アンデウソン・シウバvsニック・ディアスのスーパーファイト。「“何をしでかすかわからない”者同士の世紀の一戦」

日本時間2月1日(日)に米国ネバダ州ラスベガス マンダレイベイ・イベントアリーナで行われる『UFC 183』。メインイベントは、かつてのUFCミドル級“絶対王者”と呼ばれたアンデウソン・シウバの13カ月ぶりの復帰戦だ。

 

アンデウソンは2013年7月7日の『UFC 162』でクリス・ワイドマンにTKOで敗れ王座転落。その半年後、12月28日の『UFC 168』での再戦ではローキックを放った際、左足を骨折してしまい、キャリア初の連敗を喫したことで一時期は引退も取りざたされたが、ケガが癒えるとともに復帰を決意。今回、ニック・ディアスを相手に復帰戦に挑むこととなった。

 

対するニックも、2013年3月16日『UFC 158』でジョルジュ・サン・ピエールに敗れたあと引退を示唆していたが、アウデウソン戦のオファーに対して、階級を1階級上げて約2年ぶりの復帰を決意した。

 

ともにUFCを代表する実力者であると同時に、試合のたびに物議を醸す、“何をしでかすかわからない”者同士の大一番の見どころをWOWOW『UFC-究極格闘技-』解説者、高阪剛に語ってもらった。

 

 

——今回は日本時間の2月1日に『UFC 183』のメインイベントとして行われるアンデウソン・シウバvsニック・ディアスの見どころを語っていただきたいのですが、その前に『UFC 182.5( on FOX 14)』のライトヘビー級次期挑戦者決定戦を振り返ってください。ランキング1位のアレクサンダー・グスタフソンが、アンソニー・ジョンソンにまさかの1ラウンド TKO負けとなりました。

 

高阪 そうでしたね。あの一戦は、まず思った以上にアンソニー・ジョンソンが落ち着いていたというのが、勝敗を左右した大きな要因になったと思いますね。

 

――ジョンソンは入場のときから、いつもとは顔つきも雰囲気も違いましたもんね。

 

高阪 また試合の作り方も、ジョンソンは前にじわじわとプレッシャーをかけていって、以前のような闇雲に前に出ていく感じじゃなかった。ちゃんと自分の打撃を選びながら、相手の攻撃も、とくに左右のストレートを警戒しながら前に出ていたので。かなり成長したな、と思いましたね。

 

——序盤はグスタフソンが、自分の距離、遠い間合いを取ろうとしていましたけど、ジョンソンは前足でのハイキックなどを織り交ぜながら距離を潰していって、強引に自分の距離にしちゃいましたもんね。

 

高阪 そうですね。グスタフソンもプレッシャーを受けながら、途中で一瞬、自分の距離に戻したつもりだったんだけど、試合を全体的にコントロールしていたのはアンソニー・ジョンソンだったので。ああいうリズムを崩される闘いをされると、グスタフソンですら、ああも脆く負けてしまうんだな、というのが驚きでしたね。

 

——グスタフソンは本来、打たれ強さにも定評があったんですけどね。ジョン・ジョーンズとのタイトルマッチでは、5ラウンドに渡って強烈なエルボーなどを何発ももらいながら、ガンガン前に出ていたのに、そのグスタフソンが1ラウンドで戦闘不能になるわけですからね。

 

高阪 だから、強打を打つときも、ちゃんとピンポイントで狙って打ってたんですよね、試合が終わってからわかったことですけど。戦前の予想では、前には出るだろうけど、もっとガチャガチャやると思ってたんですよ。でも実際はそうじゃなく、これまでの経験を元に、戦略もしっかりと組み立てることができて、自分の爆発力を最も効果的に爆発させることができるようになってたんで。こういう闘いができるならば、ジョン・ジョーンズとの試合が、本当に楽しみになりますよね。

 

——また、ジョン・ジョーンズとグスタフソンは、体格がほぼ一緒ですから、アンソニー・ジョンソンにとったら、仮想ジョン・ジョーンズを一方的に倒したということにもなりますから。あれだけのリーチ差、身長差があっても、ああいう闘いができるということを証明してみせたことにもなりますよね。

 

高阪 だから、あれはジョン・ジョーンズ側にとっても脅威になると思いますよ。

 

——グスタフソンというのは、あのジョン・ジョーンズが、なかなか自分の距離をつかめなかった相手ですからね。

 

高阪 なおかつ、ジョン・ジョーンズが倒しきれなかったグスタフソンを、ジョンソンは1ラウンドで沈めたわけですから。あれは、ジョン・ジョーンズ側も「どれだけのものなんだろう?」と絶対に思ってるはずなんですよ。あの試合を観て、作戦も含めて「かなりしっかりやらないとダメだな」と思ったんじゃないかな。そう思わせるだけの試合をやったということはデカいですね。

 

 

ケガをしたことで原点回帰したアンデウソンが見られる

 

 

——わかりました。では、『UFC 182.5』の話はこのくらいにして、次の『UFC 183』も大一番ですよね。アンデウソン・シウバが13カ月ぶりの復帰戦を行なって、その相手がなんとニック・ディアスという。

 

高阪 いや~、UFCはとんでもないですよね。「これ、組むのかよ!?」っていう凄いカードを平気で組んできますからね。

 

——観たいから組む、という(笑)。

 

高阪 ホント、そうですよね。これが仮にアンデウソンの復帰戦としてミドル級のランキング上位の誰かと当てると考えるよりも、ニック・ディアスと対戦するというほうが、興味としては圧倒的にそそられますから。

 

――ニック・ディアスはもともと1階級下のウェルター級ですけど、そういった理屈を超えて、この一戦は観たいですよね。

 

高阪 それをアンデウソンの復帰戦でやるというのは、いまのUFCを象徴していると思います。

 

——ニック・ディアスも、もともとGSPとの試合後に引退を表明していたのが、「アンデウソンでできるなら、やる」というかたちで、2年ぶりに復帰してきたわけですしね。

 

高阪 アンデウソンもケガをする前、引退のことを口にしてませんでしたっけ?

 

——クリス・ワイドマンとの再戦前に「この試合が最後になるかもしれない」とは語ってましたね。

 

高阪 そうでしたよね。だからワイドマン戦前のアンデウソンというのは、追われる立場でずっとやってきたことで、正直、モチベーション的にどこにピークをもってきたらいいのか、気持ちのコントロールの部分で大変だったと思うんですよ。それを、ああやってケガをして、そのケガを治していく中で、自分の身体が癒えていくにしたがって、おそらくは「俺にはまだやることがある」っていう気持ちが、沸々とわいてきたんじゃないかな。

 

――ある意味、ケガをして戦線離脱することで、気持ちを一度リセットして、リフレッシュすることができたというか。

 

高阪 そうだと思うんですよ。格闘技を始めたばかりの頃、自分が成長していく過程っていうのは、選手にとって凄く楽しい時期なんですけど、ケガをしたあと身体が復調していくときって、その時期と似たような感覚があるんですよね。

 

——なるほど。ケガが治っていく課程で、自分が成長していくときと同じ感覚を取り戻せたかもしれない、と。

 

高阪 だから、アンデウソンにとって、気持ちの原点回帰というか、そこにマインドが一度戻ったんじゃないですかね。そうなると、相手が誰であれ、復帰戦への期待感が否応にも膨らむんですけど。ただでさえ楽しみなのに、相手がニック・ディアスですからね。

 

――楽しみにもほどがある、と(笑)。ニック・ディアスも、相手がビッグネームになればなるほど燃えて、本領を発揮するタイプですしね。

 

高阪 もともと試合で引っ掻き回すのが得意だし、それでいて、しっかりとしたボクシングテクニック、柔術テクニックを持っていますからね。なおかつ、観る側からすると、何をしてくれるかわからない。「なんか、突拍子もないことをやってくれるんじゃないか」という期待感も持ち合わせている。そういう不確定要素がもの凄く詰まった二人なんで、より楽しみになりますよね。

——アンデウソンとニックは、試合をするたびに物議を醸す、二大巨頭ですもんね(笑)。

 

高阪 ホントですよ。その二人が試合するだから、自分なんかも会場で生で観たいくらいですからね(笑)。

 

 

ローを蹴れるかどうかでアンデウソンの決意が測れる

 

 

——試合のポイントとしては、どこになりますかね? ボクシング&柔術のニックと、変幻自在のストライキングを持つアンデウソンの闘いになりますけど。

 

高阪 まず距離の問題から考えると……「距離」と簡単に言っても、アンデウソンの距離の取り方というのは、ちょっと普通の選手とは違うんですよ。

 

――どう違いますか?

 

高阪 ただリーチが長いから遠い距離を取るわけじゃなく、相手からするとどこから手が出るのか足が出るのかわからない距離の設定をするんですね。

 

——なるほど。

 

高阪 だから、相手はどういう攻撃がくるのか、把握できる前に射程距離に捕らえられて、倒されてしまうというね。そういう強みは以前と変わらずあるとして、試合展開の中でやり合いになったときでも、気持ちの部分でもう一度掻き立てられるものが復活しているアンデウソンであるならば、ニック・ディアスと打ち合いすら辞さないという姿勢も観られるんじゃないかな。

 

――ニック・ディアスは文字通り肉を斬らせて骨を断つというか、毎回、顔面血だるまになりながら打ち勝つ強さを持ってますけど、アンデウソンがあえて殴り合うかもしれない、と。

 

高阪 だから、アンデウソン側から考えると、二つのことが考えられると思うんですよ。まったく相手に触らせることなく、パーンと打撃を入れて倒してしまうことも考えられるし、ニック・ディアスの仕掛けてくる挑発に全部乗っかって、向こうの土俵に乗って勝つというということも考えられる。ただニック・ディアスももちろん勝つために対策をして上がってくるだろうし、打ち合いになれば、相手が誰であっても打ち勝つ力を持っていますからね。

 

——一度ラッシュが始まったら止まらないですしね。

 

高阪 あとニックはボディ打ちが凄くうまいので、それでアンデウソンの足を止めることができるのかどうかというのも、技術的な目で見ると楽しみな部分になりますね。

 

——また、ニックとネイトのディアス兄弟の最大の弱点は、ローキックに弱いという部分だと思うんですけど。

 

高阪 そうですね。

 

――となると、アンデウソンはローキックが得意ですから、かなり不利なんじゃないですか?

 

高阪 普通に考えたら、そうですよね。アンデウソンの蹴りの距離にされたら、まるで試合にならないでしょうね。

 

——でも、アンデウソンは、そのローキックで脚を折ったばかりでもありますよね。

 

高阪 だから、アンデウソンがそれをできるかってことですよね。正直、あの骨折でローキックを蹴ることへの恐怖心というのは、植え付けられてしまったと思うんですよ。いくらそれをカバーしようとしても、微妙なズレというのは、どうしても生まれてしまう。だからこそ、その克服度合いによって、アンデウソンの決意というのが測れると思うんですよね。アンデウソンが本当にもう一度、頂上を目指して戻ってきているのかどうかというのは、蹴りを出すか出さないか判断できると思います。

 

——ローを蹴れないアンデウソンとなると、もうあのアンデウソンとは違いますもんね。

 

高阪 そうですね。単純に攻撃がひとつ減るだけじゃなくて、全体のバランスが崩れるので。ま、技術的にはそういうところがポイントとなりますけど、そういうことを抜きにして、頭空っぽにして観ても、格闘技を知らない人が観ても面白い試合にはなると思いますけどね(笑)。

 

——ファイターとしてだけでなく、人間としての魅力というか。観客の心をゾワゾワっとさせるものを二人とも持っていますからね。

 

高阪 また、まるで対照的じゃないですか、そこがまた面白いなって。

 

——では、あえて試合を予想すると、どうなると思いますか?

 

高阪 まあ、これはアンデウソン次第になると思うんですよ。アンデウソンがもう一回、頭をリセットして、ホントにUFCのチャンピオンになる前や、初めてタイトルマッチをやった頃の気持ちに戻っていれば、これは圧勝するんじゃないかと思うんですよね。ただ、ニック・ディアスも引退を撤回してまでアンデウソンとの試合に懸けていますから、そこの思いの強さとかが勝敗を分けることになるんじゃないかと思います。ま、とにかく楽しみましょう!(笑)。

 

――わかりました(笑)。このスーパーファイトを目一杯楽しみましょう!

 

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